1.運動不足と膝の痛みからの出発
40歳を過ぎた頃、運動不足がたたり、全身が重だるく、特に左膝はまるで関節の油が切れたかのように痛み、歩くことすら億劫になっていた。そんなある日、ラジオから「運動不足解消や成人病予防には、水泳・ジョギング・ウォーキング・サイクリングなどの有酸素運動が効果的」と流れてきた。
「自分に合うのはどれだろう?」と考えたとき、膝の痛みからジョギングとウォーキングは即却下。水泳はジム通いが必要で、時間や場所に制約がある。消去法で残ったのがサイクリングだった。
2.ロードバイクとの出会いと回復の実感
初心者ながらも、空いた時間を見つけては自転車ショップを巡り、情報を集めた。そして2005年4月25日、信頼できる店主の勧めで初めてのロードバイクを購入。ショップ主催の合同練習にも参加し、1年後には往復200Kmのサイクリングを楽しめるまでに。気づけば、あれほど悩まされていた左膝の痛みもすっかり消えていた。
しかし、競技志向ではなかったため、毎回同じコースを走る練習に次第に飽きが来た。もっと遠くへ行きたいという思いから、ロードバイクを輪行して旅先で走るようになったが、毎回の梱包作業が煩わしくなり、ついに「走行性能が高く、スーツケースに収まる折りたたみ自転車」を探し始めた。
3.折りたたみ自転車探しの旅と失敗
2007年11月18日、幕張メッセで開催された第1回サイクルモードショーに参加し、会場中の折りたたみ自転車を試乗しまくったが、理想の一台には出会えなかった。帰ろうとしたその時、あるブースで目を奪われた。パールホワイトに輝く25周年記念モデル。試乗は叶わなかったが、カタログを持ち帰り一晩中眺め続け、翌日ショップでフラッグシップモデルを注文した。
半年以上待ってようやく納車されたが、初ライドでブレーキが全く効かず、すぐに引き返す羽目に。原因は、メーカー純正のセミロングアーチ・ブレーキの制動力不足という致命的な欠陥だった。ショップの協力で改良を試みたが、市販パーツが合わず、半年で断念。もし当時、ミニベロ専門店やカスタムパーツの存在を知っていれば…と悔やまれた。
4.英国製折りたたみ自転車との運命的な出会い
折りたたみ自転車に関する文献を読み漁る中で、スーツケースに収まるモデルがほとんど存在しないことを知る。それでも諦めず、2008年11月3日に再びサイクルモードショーへ。最後に試乗した英国製の16インチモデルに驚かされた。小径ながらしっかりした造りと走行性能、そして世界最小の折りたたみサイズ。分解すればスーツケースにも収まりそうだった。
しかし、近くに取扱店がなく、購入は断念。そんな折、リーマンショックによる円高をチャンスと捉え、2009年1月18日、ついに英国へ直接買いに行くことを決意。実は、ロゼッタストーンやストーンヘンジを見たいという夢も背中を押していた。

ロンドン到着後、ハロッズ周辺を歩き回ったものの、自転車ショップはおろか、英国製の折りたたみ自転車に乗っている人すら出会えなかった。しかし、「きっと最後には見つかる」と信じていた。
そんなとき、目の前を赤い2階建てバスが通り過ぎた瞬間、ふと視点を変えてみようと思い立つ。バスに飛び乗り、2階の最前列に座って街を見下ろしていると、偶然「EVANS Cycles」の看板が目に飛び込んできた。急いでバスを飛び降りて駆け込むと、そこにあったのはまさに探し求めていたチタン製モデルだった。
5.折りたたみ自転車がくれた自由と夢
翌朝、手に入れたばかりの折りたたみ自転車でハーマースミスからウォータールー駅へ。電車でソールズベリーへ輪行し、ストーンヘンジを目指す。予想外の起伏と寒風に苦しみながらも、ついに羊の放牧地の中に現れた遺跡を目にした瞬間、感動で胸がいっぱいになった。

その後もロンドン中を駆け巡り、グリニッジ天文台、バッキンガム宮殿、アビー・ロードなどを訪問。折りたたみ自転車は、交通費ゼロで、レンタカーや公共交通機関よりも遥かに効率的な旅を実現してくれた。この旅が、折りたたみ自転車との原体験となり、心に深く刻まれた。

帰国後も輪行旅行を重ね、英国製折りたたみ自転車を少しずつカスタム。気づけば本体価格を上回る費用をかけていたが、それでも満足できず、「いっそ自分で理想の折りたたみ自転車を作れないか」と考えるようになった。その思いは、日々の不便さとともに強まり、やがて一つの夢へと育っていった。